増税では税収増えず

森永卓郎(獨協大学教授)

森永卓郎
1957年生まれ。東京大学経済学部卒業。日本専売公社、三井情報開発、三和総合研究所を経て、獨協大学経済学部教授。著書に『「価値組」社会』(角川SSC新書)、『年収300万円時代の「お金の常識」』(イースト・プレス)など多数。

超党派の「たばこと健康を考える議員連盟」がたばこの大幅な増税を目指して精力的に活動を進めている。自民党税制調査会の津島雄二会長も、党税調で検討する考えを表明しており、消費税率の引き上げが先送りされるなかで、たばこへの増税が来年度の税制改正の焦点になる可能性が高まってきた。

そもそも、たばこ大幅増税の議論のきっかけを作ったのは、日本財団の笹川陽平会長が3月4日(08年)に産経新聞に発表した論文だった。笹川氏は「1箱1000円に値上げした場合の1本当たりの価格は約15円から50円に上がり現在の消費量で単純計算すると、これに伴う税収増は9兆5000億円の巨額に上る。仮に喫煙率、消費量が3分の1に落ち込んだ場合も3兆円を超す税収増が見込める」として、たばこの増税を税収増と国民医療費抑制の一石二鳥の施策であると訴えた。

また、日本学術会議も、たばこを1箱1000円にした場合、たばこの消費量は現在の2700億本から1440億本に減るが、税収は4兆600億円増えるとの試算を明らかにしている。

しかし、たばこの増税で本当に税収は増えるのかどうかは、冷静に検討しなければならない。私は、増税で税収は増えないと考えている。

第一の根拠は、たばこ税の推移だ。最近のたばこの増税は、03年と06年に行われている。01年度のたばこ税収は2兆2493億円だった。値上げをした03年度は2兆2759億円に増えるが、05年度には2兆2400億円と01年度よりも税収は減る。その後、06年度に値上げをして2兆2874億円に増えるが、07年度は2兆2700億円に減り、今年度(08年)の見込みは2兆2000億円と再び値上げ前の税収を下回る。2度も値上げをして、結局のところ税収はまったく増えていない。値上げで消費量が減るからだ。

第二の根拠は、大幅な値上げで消費が激減するとみられることだ。製薬会社のファイザーが今年(08年)4月、喫煙者9400人に行った調査では、「たばこが1000円になったら禁煙する」と答えた人が79%にも及んだ。JT(日本たばこ産業)の木村宏社長も、たばこが1箱1000円になったら、禁煙する人が80〜90%出てもおかしくないと語っている。

たばこ1000円で79%の喫煙者が禁煙したと仮定すると、たばこの税収は2兆2565億円となり、昨年度よりも小さくなるのだ。

それだけではない。2000年の産業連関表によると、たばこ産業の国内生産額は、間接税を除いて1兆997億円となっている。79%が禁煙すれば、これが8688億円減少する。JTはもちろん、原材料の仕入れ先も、売り上げが5分の1に減少するのだ。生産額減少の10%が、法人税や従業員の納める所得税の減少などを通じて税収減となると仮定すると、こちらのルートでも税収は869億円減少する。たばこを増税して、税収が減るというおかしなことが起きるのだ。

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