たばこは有害であるという根拠は怪しい
名取春彦(獨協医科大学放射線科医師)
- 名取春彦
- 1949年生まれ。東北大学医学部大学院修了。癌研究会付属病院、東北大学医学部、メモリアル・スローン・ケタリング癌センターを経て、獨協医科大学放射線科。
「たばこは有害である」という論理は、いまや一般常識のようになっていますが、私はそもそも、その根拠となっているデータに疑問を感じています。
日本の禁煙・嫌煙運動の理論的裏づけは、1966年から1982年にかけて行われた、生活習慣と病気との関係を追った大規模疫学調査の結果によるところが大きいのです。この調査は、当時の国立がんセンターの疫学部長・平山雄氏と厚生省が中心となって行ったものですが、「たばこは有害だ」という結論が先にあり、それに結びつくデータしか採用していないという点が問題だと思うのです。
そのことが顕著に表れている具体例があります。掲出した表は、平山氏の論文中のデータをもとに、男性のがんによる死亡人数を示したものです。表中の「調査対象人数」とは、平山氏が言う“延べ人数”のことで、「調査人数×観察年数」を表しています。「その他」の欄は、私が平山氏のデータから数値を算出し、新たにつけ加えたものです。注目すべきは「その他」の欄の「10万人あたりの死亡人数」。これに当てはまるのは、「毎日喫煙する」のでも、「喫煙しない」でもない人、つまり「ときどき吸う人」です。この「10万人あたりの死亡人数」が264人と、「喫煙しない人」の304.3人よりも低くなっているのです。
このデータは、平山氏の論文中には記されていません。つまり、“たばこは有害である”という理論に反する結果が、隠蔽されているのです。
このほか、受動喫煙に関しても、疑問視すべき点があります。
①「夫婦共に非喫煙の場合」と比較して、②「夫のみが喫煙者の場合」は、妻の肺がん死亡率が約2倍になるというデータが平山氏により1982年に発表されました。
この結果が多くの論者に引用され、受動喫煙被害が騒がれるきっかけとなったのです。
ところが、平山氏の論文の記述から、実際の死亡者数を探し出してみると、①の場合の妻の人数は2万1895人で、そのうち肺がんで死亡したのは14年間で32人、②の受動喫煙とされている妻の人数は6万9645人で、そのうち肺がん死亡者数は同じく14年間で142人。
これらの数値からは、どうやっても統計学的に有意差は出ません。世界中の研究者が平山氏の統計処理の方法に問題があると指摘しています。
現段階では、たばこが酒や他のものよりも健康に影響を与える、とは断言できないでしょう。
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